第1章 はじめに

*注
単に『ブータブルCD』という用語で書かれている場合は、『ブータブルCD』と『ブータブルDVD』の両方の意味である。

ブータブルCDって?

ブータブルCDという用語の意味は多分御存知だと思う。ブータブルCDをCD-ROMドライブに装填しておいてからPCの電源を入れると、普段起動するOSではなく、CDの中に書き込まれているプログラムが起動するというものである。

皆さんが良く知っている例を挙げれば、WindowsのインストールCDがこれにあたる。(注:全てのWindowsインストールCDがブータブルなわけではない) メーカー製PCのリカバリーディスクもこの仲間だ。一方、音楽CDや多くのアプリケーションインストール用ディスク(たとえばMS OfficeのインストールCD)をあらかじめCDドライブに装填しておいても、PCはそれらのCDを無視して、通常通りのOSが立ち上がるはずである。なぜならば、これらのCDは『ブータブル』ではないからである。

「あれ?自分のPCは、音楽CDを入れれば自動的にプレーヤーソフトが起動して曲が流れるし、アプリケーションインストール用ディスクを入れれば自然とインストール画面が表示されるけど…」などと思った人もいるかもしれない。それはオートランCDのことだ。オートランCDとは、WindowsなどのOSが既に起動している状態でドライブに装填すると、CDの中のプログラムなどが自動起動するものだ。OS起動前に用いるブータブルCDとは全く別次元のものである。

ところであなたは、ブータブルCDを実際に作った経験がおありだろうか?もちろん我々はプログラム開発者じゃないのだから、『一からプログラミングをして』という意味ではない。

たとえば、オリジナルの【Windows XP】のインストールディスクを所持しており、これにその後配布されたサービスパックを適応し、サービスパック統合済みのインストールディスクを作る作業を想定してほしい。この作業に関しては解説サイトも豊富だし、【SP+メーカー】のような専用ソフトも作られているので、実際に作成経験のある方も多いと思う。経験者は分かると思うが、単にファイルをCDに焼き付けただけでは"ブートレス"CDを作ってしまう。ブータブルにするためには、ある種の追加作業が必要とされる。

もちろんブータブルCDを作るという例は、上のような手間のかかる作業を要求されるものばかりではない。一例として【Acronis TrueImage】を紹介しておこう。これはシステムのバックアップソフトであるが、Windowsが立ち上がらなくなった場合でも回復できるように、レスキュー用ブータブルCDを作る機能を持っている。製品CD自体もブータブルCDになっているが、ダウンロード版を購入して製品CDがない場合や、アップデート用ファイルを入手してそれを適応した場合などに、【TrueImage】はブータブルCDを作ることを求めてくる。これなどは、ウィザード通りに作業を進めていけば、誰でも簡単にブータブルCDが作れるようになっている。

大容量メディアの普及

これを書いている現在(2005年7月)、CD-Rはきわめて安い。1枚あたりフロッピーディスクよりも安く買える。そしてDVD-Rもこれまた安い。もちろん激安粗悪品に気をつけないといけないが、名前の通ったメーカーの製品でも容量あたりの単価を考えればCD-Rよりも割安だ。2層DVDはまだまだ割高で、新規格もどうなるか不透明だが、はっきり言えることは、今後もますます大容量メディアが登場し、1MBあたりの単価も更に下がり続けるであろうということだ。

ところで、(具体的な内容は後述するとして)一般的にブータブルCD/DVDはdisk at onceで作る。何度かに分けて追記するということはしない。また、WのつかないCD-RやDVD±Rは、1回disk at onceで書き込んでしまえば、2度と書き加えたり、まっさらにして書き直したりすることは出来ない。前述の【Acronis TrueImage】の緊急ディスクは容量10MBほどだが、4.7GBのDVD-Rに書き込めば、それでもう、そのメディアはそれ以外の用途には使えないのだ。全容量の99.8%は有効利用されていないことになる。私は貧乏性なので、こういうのにはとても耐えられない。650MBのCD-Rに対しての10MBでも、相当に抵抗を感じる。

上の例は極端なものだが、一般的にDVDの4.7GBという容量があれば、Windows95〜2003までの手持ちのインストールディスクを1枚にまとめてしまおうとか、【KNOPPIX】と【Bart's PE Builder】と【Ultimate Boot CD】を一緒のディスクに収めようとかいう考えが出てくるのが自然だと思う。そのためには、マルチブートという概念がどうしても必要になる。

マルチブータブルCD/DVDというのは、複数のシングルブータブルCDを寄せ集め、1枚のCD/DVDにまとめたものである。上の例で言えば、【KNOPPIX】と【Bart's PE Builder】と【Ultimate Boot CD】のマルチブータブルDVDとは、このDVDを装填してPCを起動すると、最初に3つのプログラムのどれを選ぶのかという選択メニューが現れ、そこでたとえば【KNOPPIX】を選ぶと、【KNOPPIX】が(それ単独でCD-Rにした時と同じように)起動するといったようなものである。そもそも【Ultimate Boot CD】などは、それ自体が何十ものプログラムのマルチブータブルCDである。

ブータブルCDを作る技術

このように、ブータブルCDというのは決して我々一般ユーザーと無縁な特殊なものではない。HDD以外の機器からでもPCをブートできるという技術は、おもにレスキュー用途などで、ユーザーにとっての強力な武器になる。そして、フロッピーディスク非搭載のPCが増え、USBメモリのような新たな機器では統一したブータブル規格がはっきりしないという現状では、個人でブータブルCDを作る技術は、もっと一般に浸透しても良いものだと私は考えている。

このコーナーでは、Windows XP上で、自分好みのマルチブータブルCDを作る方法を紹介していきたいと思う。この種のネタを扱っている日本語のWEBサイトがほとんどないので、私自身がブータブルCDを作ろうと思ったときに非常に苦労したというのが、このコーナーを書こうと思った大きな動機である。海外では、独自のマルチブートローダーが何種類か配布されているし、関連フォーラムも盛んなようである。私もまだまだ解らないことだらけであるが、今後ブータブルCDを作ろうとする方にとって、少しでも参考になれば幸いである。

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